相続対策や認知症対策など、ご両親を始めとした身近な方の老後の対策を紹介していくこのシリーズ。
今までに書いた記事は↓こちら↓からどうぞ。
今回は、遺言についてお話をします。
皆さんが感じているイメージとは少し異なるかもしれません。
筆者紹介
私は、本業で相続関係のコンサルティングに携わっています。
相続はもちろん、その前の段階として、相続対策や認知症対策
さらにその前段階になる介護予防などの重要性にもよく触れています。
緊急事態宣言が発令されている地域にいます。
それでも最近、出張する機会が多くなりました。
大変な時期で中心街に出てくるのは勇気が要るので
お家まで来てほしい……というパターンですね。
私自身が感染していたら元も子もないので
感染症対策には特に気を遣うようになりました。
今回は遺言の話。選択肢のひとつとして紹介すると
一瞬「えっ?」って驚かれることも多いですね。
遺言と聞くと、貴方はどんなイメージを持ちますか?
もう死期を悟った人が、枕元で家族に何かを伝えるシーンでしょうか。
もしもそういうイメージが頭の片隅にでもあるのなら、今日から考えを改めてみませんか?
確かにそういう場面で伝える遺言もあります。
でも、相続対策や認知症対策として効果のある遺言は、ある程度元気なうちに行うものです。
それでは、始めていきましょう。
遺言って、どういうもの?
「ゆいごん」と「いごん」
このシリーズで、以前にもさらっと紹介しましたが
大学の法律学などで「遺言」を習ったとき
「ゆいごん」と読んだら注意をされていました。
「遺言」は、用語では「いごん」と呼ぶことになっているのです。
でも、以前触れた際にも話しましたが
皆さんにとっては「どっちでもいいこと」ですよね(^^;)
いや、どちらかというと「ゆいごん」の方が一般的な気がします。
私は、相談でこの用語を使用する際には敢えて
皆さんが聞き慣れている「ゆいごん」と呼ぶことが多いです。
でも、ここを見た貴方はちょっと覚えておいてくださいね。
私は、この二つを
「亡くなる前にただ遺すことば(ゆいごん)」と
「法律上の効力を持った行為(いごん)」といった感じで分けて考えています
(あくまで頭の中だけで、自分が考えやすいからそうしているだけです。学問上それが実際に正しい振り分けかどうかは知りません(^^;))。
この記事で紹介したいのは、後者の「遺言」です。
自分が亡くなったあとのことを決める
遺言で最も重要なのは「もし自分に何かあったときのこと」を自分自身の意思で決めることです。財産の処理、遺産分割の方法、後継者の選定などなど、もしご両親が何かと心配事を持っている場合、遺言という方法を勧めておくと「安心材料」にもなりますよね。
「自分が死んだら」なんて考えると気が滅入りますが、自分が決めておかないと心配な事柄を本人の意志で決められれば、その後の人生も憂いなく楽しく過ごすきっかけにできるのです。
遺言の「種類」
遺言には、大きく分けると3つの種類があります。
それぞれにメリットやデメリットがあるので
遺言を書くのであれば、この3種類の違いをよく把握したうえで、どの種類にするか決めてから書くようにしましょう。
自筆証書遺言
言い換えれば、普通に書き置きのように残しておくものです。
公正証書のように作成費用がかからない点はメリット……かもしれませんね。
ただ、法的に効力を持たせるためには、家庭裁判所の「検認」という手続きが必要になります。
検認を通過するためには
・全文を自筆で書く(一部財産目録などを除く)
・作成した年月日と氏名を記入して印鑑を押す
主に、これらの条件を満たさないといけません。
さらに、検認自体を通過しても、それで完全とはいきません。
遺言の内容を実行するためには、遺すものや遺したい人物についても第三者が見ても分かるように書かなければならない……
これ、意外と大変です。
たとえば……
「この通帳はAに、他の財産はBに与える」
と書かれた遺言があったとしましょう。
家族なら一目瞭然でしょうが、争いになったときは危険です。
「通帳(というノート)のことは書いてあるけど、中身(口座の預金)のことは書いてないよね?」
「AとかBって、同じ名前でもこの人とは限らないよね?」
もう勘弁してくださいよ、普通分かるでしょ
……なんて我々の立場で言ってはいけないんですが(^^;)
争いをなくすためには、しっかりと特定させて書く必要があるのです。
挙げた例でいえば、銀行名・口座番号・住所・フルネーム・生年月日・続柄は必須でしょう。
また、亡くなったときに遺言を見つけた人が「もみ消して」しまう危険性もありますし、書き換えられる可能性も捨てきれませんよね。それを警戒されると、今度は実際に書いたものでも「誰かが筆跡を似せて書いたのでは」などと真偽を問われる可能性もあります。
自筆証書で遺言をのこすのは
・相続人となる人たちとの関係が良好で
・意思さえ把握できればそのように動いてくれるだけの信頼関係がある
という場合に限った方がいいように、私自身は思っています。
公正証書遺言
公証役場で、公証人に立ち会ってもらって「公正証書」としてのこすものです。
証人も、遺言者と利害関係のない2人が立ち会います。
自筆証書と違い、その真偽が争われることがありません。
これは、亡くなった際に遺言の内容を実行(執行、というんですけどね)してくれるか、心配にならずに済みます。
公証役場に支払う作成費用だけでなく、立会人の選定も含めるとかなりの労力も要ります。
司法書士や行政書士に証書の作成を含めた作業を任せるとなると、今度はそれなりに費用がかさみますよね。
それでも、遺言を「しっかりと」残したいのであれば、公正証書は最も有効な手段です。
色々な事情があって、あとで必要以上の争いが起きないために遺言をのこすのであれば、できればこの方法で行いたいところですね。
秘密証書遺言
遺言を書き(自筆である必要はない)、印など必要な処置をほどこして、公証人の立会いのもとで封印して保管するものです。
どうなんでしょうね。色々な事情がある場合には有効なのですが、マイナーな手法なのでここでは細かい話は割愛しますね。
ところで、遺言には「付言事項」というのがあります。
財産の処分方法などのほかに
この遺言書を見る人に向けて遺しておきたい
メッセージなどを自由に書いておける欄のことです。
私も色んな人の思いのこもったメッセージを見てきました
基本的には、遺言を作成した理由を書いて
遺された家族に理解を求める内容のものが多いけれど
愛情を感じるものもあります。
長文の人、それぞれの思いを綴った人。
そんな中、個人的に一番感動したのは
80代の人が、60代の3人のお子様に遺した言葉。
「いつまで経っても可愛い子達へ。ありがとね」
このたった一行だったんですけどね
見た瞬間、急に催したフリをして一旦席を外しました。
では、後半戦です。
遺言をしておくと、どうなるの?
遺言の効果・メリット
繰り返しになりますが
亡くなったあと、ご自身の意思を遺す……これが一番ですね。
それによって、関係が複雑な場合や、今は良好な関係でも将来争いの火種になりかねない事情がある場合にも、所有者の立場からある程度効力のある決定ができます。
これは、のこされた人にとって有難い場合もありますよね。
実際「私達では決められないから、お父さん(お母さん)が先に決めておいて。私達はそれに従うから」と、きょうだいがお父様(お母様)を引っ張り出してきて相談にみえるケースもよくありますよ。
遺言のデメリット
書き方やその後の手続き(自筆の場合)、費用面(公正証書)については前述のとおりです。
そのほか、容易に撤回が可能である点も気をつけておいた方が良いでしょう。
「気が変わった」というやつですね。
いちいち意思を確認するのも変な話ですが……(^^;)
次に……悲しい話ですが、世の中順番通りにいくとは限りません。
遺言で指名した人が先に亡くなってしまった場合、先に亡くなった人に該当する項目は「基本的に全て無効」になります。ここもおさえておくべきポイントです。
あと、相続人同士の関係が微妙だったり争いがあったりした場合に、ひとつだけ気をつけてもらいたいポイントがあります。
遺留分
遺言に「〇〇に全てを遺します」と書かれていた場合にも
一定の間柄の相続人には、遺産を相続する権利が残ります。
これが、遺留分です。
まず一定の間柄とは
1・妻
2・子や孫、ひ孫等々(直系卑属といいます)
3・親、祖父母等々(直系尊属といいます)
のことで、きょうだいは含みません。
上記の1、2、3に該当するうち、相続人にあたる人は
請求によって、通常の法定相続分の半分を得る権利を得られます。
……まあ、難しいですね(^^;)
こちらも、どこまで説明しようか迷うんですが(^^;)
「遺言で全部もらえると書いてあっても、もらえないケースもあるんだよ」
まずはそう認識しておいてください。
それでも、実際に請求された場合も額は半分に減るわけですから
効果はゼロではないですよね。
遺言が効果的なとき、他の対策がお勧めなとき
ちょくちょく話題に出していますが
1・分けることが難しい財産を持っている人
2・相続人となる人の関係が微妙である場合
3・特に主張しておきたい場合
この場合には、遺言が効果的でしょうね。
1のケースで多いのが、不動産です。1つの不動産を複数の相続人が持つと、将来処分や運用となったときに同意が必要となるなど大変なことになります。そこで、相続人の1人に不動産を所有・管理させ、その代わり残りの相続人にその分の預金を渡す……などと書き記しておくケースも多いです。
2と3は、これまでに説明したとおりですね。
それでは、遺言ではなく他を勧めるケースのうち、主なものを紹介します。
贈与
贈与税がかかるなどのデメリットもありますが、たとえば不動産の名義を確定させる効果も存在します。「どうしてもこの土地は長男に」などという意思が固い場合などに、「こっちもありますよ」とお勧めするケースがありますね。
家族信託
生前の財産管理に有効な家族信託ですが、亡くなったあとの財産処分でも効果を発揮します。そして、遺言では「Aに財産を渡す。そのときAが死んでいたら代わりにBに」と書くことはできませんが、家族信託であれば財産を引き継いでいくことが可能になります。
ただ、さまざまな出来事を想定して「信託契約書」を作成しないと、かえって足かせになったり意味がなくなったりするケースもあるので、要注意ですね。専門的な相談や実務の実績を持っているところにお願いすることを、強くおすすめします。
……言い換えれば、それだけ費用はかさみます(^^;)
決して意地悪とかではないんです……
込み入った話になると、漠然としたご質問に漠然と答えてしまうのは誤解を招きます。中途半端な情報を基にした回答はかえって間違った方向に進みかねないので、具体的な相談はお互いある程度知った(または情報を提供できる)間柄でないと厳しいんですよね。
具体的な興味があれば「家族信託 相談」でネット検索してみてください。
知らず知らずの間に、お会いすることもあるかも(^^;)
遺言は、ご両親だけでなく……
遺言に年齢は関係ない
実際のところ、遺言を作成するのは60歳以上の人が多いですね。
しかし、若くても将来に心配なことがあるのなら
遺言としてのこしておくと、気分的にも休まるでしょう。
遺言は撤回できる……これはメリットでもありデメリットにもなり得るのですが
ここでは「いい意味で」
考えが変わったら書き直せばいいと考えれば、肩肘張らずに作成できますよね
(そういうときは、練習を兼ねて自筆証書で書いておけば、撤回もしやすい……かな)。
このブログでは、主に筆者と同世代の皆さんに向け
ご両親の生前対策を柱にして書いています。
でも、ご両親だけでなく自分自身も、気になったら遺言を考えてみてもいいでしょう。
前回から随分間が空いてしまいましたが……
今回は遺言のことを紹介してみました。
言い足りなかったことや、誤解を招きそうな表現などが見つかった場合、ちょくちょく書き換えるかもしれません(^^;)
次回は、家族信託について書いてみようと思います。
「在宅勤務あるある」で締めたところで……
(現実的には、私は職業柄在宅勤務はできませんが……)
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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