副業・ライター

ユタカが彼女にあげたもの~3000文字チャレンジ「プレゼント」~

今の世の中ではとんでもなくダサい行動であっても、当時は至って真面目であったこともある。
たとえば「ナウい」という言葉。今はすっかり死語となり果て、使われたとしても「時代に付いていけない人が使う言葉」として定着している。しかし、流行った当時はこの単語を発しておけばトレンディーでナウかったのだ。

今考えると恥ずかしいのは、言葉だけではない。
「あの頃の自分は何をしていたのか」と考え始めると今でも寝つきが悪くなる「黒歴史」は、ほとんどの人が何かしら抱えているだろう。
しかし、その遥かに上を行く恥ずかしい過去を持つ者もいる。
恥ずかしい過去の話といえば、「アイツ」を思い出す。きっとアイツも今頃……いや、アイツなら今でも輝かしい思い出と感じている可能性もあるが。

時は四半世紀以上遡る。
大学生だった私達は若かった。青春を謳歌していたと言ってもいい。その中で最も盛り上がっていたのが、恋愛に関する話である。うまくいきそうな話から撃沈した話まで、学生寮の一室に集まっては、朝まで語り合ったものだ。
ある日のこと。
誰の部屋かは忘れたが(私の部屋でなかったのは確か)、気の合う何人かで飲んでいたら、アイツが入ってきた。
いつまでもアイツではいけないが、本名を出すわけにもいかない。ユタカ、にでもしておこう。そう命名した理由は、そのうち分かる。

ユタカも我々と気の合うメンバーのうちの一人だった。彼は、恋愛に関してはかなり苦手な部類。散々撃沈を繰り返しては、慰めの会が開催されていた。
「おお、ユタカどうした?」
入ってきた彼に向かい、口々に問いかける。彼の目は輝き、我々全員の握手を求める勢いで部屋中を回った。
「俺、彼女できた!」

衝撃の一言。
彼は「やられキャラ」であって、成功のイメージが最も浮かばなかった人間なのだ。
しかし、話を聞くと徐々におかしな部分が見えてくる。
「今まで何で黙ってたんだ?」
「だって、今日告白したんだ」
「いや、そうじゃなくてさ。今までその前に『あの子が良い』『告白しようかな』とか相談してきてただろ?」
「うん……でも、今日急にそういう気分になったんだ」
「待て……彼女って言ったよな? 今日告白したんだよな? どこまで進んだの?」
「え? 一日で……彼女と呼べるところまで進んだの? マジで?」
(女性は知らないが、男子はそんな話が大好きなのだ)
「進む? どこへ?」

正直、ここまでピュアな奴だとは思わなかった。
それまでのセリフは、25年以上前なので「まあこんな感じの会話をしただろう」という「記憶と推定」をもとに繋げているが、「進む? どこへ?」は、そのままのセリフを彼の声とともにはっきりと覚えている。
それまで、正直ここに書けないような男女間の際どい話も出ていたはずなのに。ユタカもそこにいて一緒に笑っていたはずなのに……彼はそのとき何をどう解釈して会話に加わっていたのだろうか。

まとめよう。
彼は、少し親しくなった女友達に「一緒に遊びに行こう」と誘い、OKをいただいた……今回の報告は、ここまでのお話だったのだ。そこで舞い上がって、我々のところに報告に来た。つまり……キスどころか、まだお手々すら繋いでいない。
しかし、話を聞くと、脈が全くないわけではない。その子の誕生日が近く、そこでプレゼントを贈るのだという。
「だからさ、お前達に相談に来たんだよ。俺、彼女に歌を贈ろうと思ってね。どんな感じにしようかと」
被せ気味に、私達全員が反対した。
しかし……非常に残念なことに(?)彼の唯一に近い特技がギターの演奏だったのだ。
「俺の特技を活かして、俺にしかできないプレゼントを渡したいんだ」
僕が僕であるために……の世界である。
正しいものが何なのか……いや、正しいのがそれかどうかは知らない(むしろ正しい可能性は低かろう)。
もう、そこまで入れ込んでいるのなら、我々のアドバイスなんか必要としていないだろう。
だって、アドバイスは「やめとけ」なのだから。

数日後……彼は、自身が敬愛する尾崎豊も驚くような「ポエム」を作り上げていた。
ただ、申し訳ないがポエムの内容は何も覚えていない。
こっちはもう「勝手にしやがれ」とばかり、ひたすら飲みながら聞いていた……いや言い換えよう。ポエムを演奏しているのを全く聞かずに飲み明かしていたから……覚えるも何も、馬鹿馬鹿しくて始めから頭に入っていなかったのだ(今こうしてネタにさせてもらっていると、きちんと聞いて笑える『痛いポイント』を書き留めておけば良かったと本気で後悔している)。
彼の演奏が終わる(ここからは、当然ながらそのときの記憶がないので、想像であるが……恐らく間違ってはいないだろう)。
「どうだった?」
「いえ~~~い(酔っぱらい軍団の雄叫び)」
「行けそうかな?」
「いえ~~~い(酔っぱry)」
「彼女、喜んでくれるかな」
「いえ~~~い(酔ry)」

しばらく経った。いつの間にかうたた寝をしていた私が気付いた頃にはユタカの姿はなく、酔いが覚めかかった残りのメンバーがいるだけであった。
「ユタカは?」
「ああ、喜んで帰っていったよ。明日彼女の前で歌うんだって」
酒が強く、そのときの記憶がある奴が報告してくれた。
酔った勢いで「寝たフリしてる間に出て行ってくれ」……と言ったわけではないらしくてホッとしたが……しばらくすると冷静になってくる。
「いや待て、それはまずかったんじゃないか?」
「本気やったん? 俺はてっきり冗談やと……」
すっかり酔いが覚めた私達は、友人としてそのまま行かすべきなのか議論を始めた。
『まさか、ポエムのプレゼントを本気で考えているとは思わなかった……』
これが共通の認識だったのだが、今思えばそこは「危機管理能力のなさ」を感じる。
『あいつなら、やりかねない』
という危機管理は必要であった。

次の日、その場にいた5人でユタカの部屋に行くと、彼はもうそこにいなかった。
「おい、ユタカは?」
「ギター持って出かけたっす」
「お前、止めろや」
事情を知らない同室の後輩に、理不尽な責め言葉を浴びせる5人(あのときはごめんな、F君)。
もう……こうなったら、痛いポエムを披露して
転がり続ける彼の生き様を
(笑い転げて)無様な格好で支えてやるしかない
私達は、ネタになるのを半分楽しみにしながら
彼の帰りを……そして撃沈の話を待ち続けた。

さて……この結果についてお伝えするときが来た。
豪快にフラれて、という方が話としては面白かったのかもしれない。
しかし……
実は、彼女はこのプレゼントに感動し、二人は(本当の意味で)付き合うこととなったのだ。
後日、彼女さんに聞いたところ
「私だけの曲を作ってくれて、その間ずっと私のことを考えてくれていた」
ことに感動したのだという。
恋は盲目、とも言う。
目を閉じて、何も見えず……
世の中、分からないものである。

ユタカは、誕生日に手編みのマフラーをもらうなど、しばらくは順調だった。
……明らかに短くて使い辛そうであったが、彼が幸せであればそれで良かったのであろう。
しかし、翌年の彼女さんの誕生日。ユタカはまた歌を贈り「去年と同じなんて信じられない」とフラれることになる(ユタカ談)。
「違う歌を、去年の倍以上の時間をかけて作ったのに」
「お前達に聞かせてからにするべきだった」
違う違う、違う、そうじゃない
そういう問題でないことに気付かなかったのが、彼の敗因だろう。
やはり、プレゼントは相手のことを思っても「前と見た目変わらない」ものでは魅力が無くなる。
独りよがりに突っ走るくらいなら、適当に「キリンが逆立ちしたピアス」でも贈っておいた方がマシだったのかもしれない。
それからしばらくの間、私達はユタカ自作の「毎回変わらない曲調の、失恋のポエム」を聞かされ続けることになった。
大好きだったけど……
なんて、こっちは知ったことではない。
ユタカがギターを持って部屋に現れる度に、早く次の恋を見つけてくれることを願い続けた。
ちなみに……ユタカがその後、ポエムのプレゼントで成功したという話は聞かない(そりゃそうだろう)。

どうやら3000文字を超えたようだ。
今回はこの辺で。
サヨナラ、してあげるわ。

【出展(主にその頃歌われていた曲の歌詞をイメージ)】
「僕が僕であるために」尾崎豊(1983)
「シェリー」尾崎豊(1985)
「勝手にしやがれ」沢田研二(1977)
「昴」谷村新司(1980)
「違う、そうじゃない」鈴木雅之(1994※)
「プレゼント」ジッタリン・ジン(1990)
※学生の頃にはまだ曲が出ていなかった……記憶違いだった模様(^^;)

欄外、ということで……後日談にも少し触れておきましょうか
(欄外だから口調も変えて)。
実際の「ユタカ」とは今も付き合いがある中の一人です。
今では、可愛い女の子二人の父親で
今年届いた年賀状の写真でも、娘達の横で笑顔を見せていた彼。
娘達にポエムをプレゼントしていないことを望むばかりです。

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