副業・ライター

無駄遣い~3000文字チャレンジ「酒」~


お酒と聞くと、どうしても
酒の席で起きた失敗談を思い浮かべる。
その話は大抵面白おかしく語られ、周囲を巻き込んで笑いが起きる。
何がそんなに面白いのか。
お酒が入ると、いつもと違う行動に出る人が多いのも、その一因であろう。

いや、実際のところはそれほど面白くもないのかもしれない。
「あいつら、何がそんなに面白いんだ?」
傍から見るとそう感じる場面も少なくはない。
お酒が嫌いな人からは「時間の無駄」とまで言われてしまう、酒席の場。
そこで重要になるのが「語り部」の存在である。
本当にあった話にほんの少しだけ「尾ひれ」という「隠し味」を加えて、話を盛り上げる。……そう、まるで料理酒のように。
思えば、神話の類だって同じようなものであろう。実際に起きた話が大きくなっていったものも数多くあるはずだ。だから、お酒のネタ話と神話は肩を並べるものであり

……

そんなわけあるかい。

今の話で少しでも頷いたり同意したりした方は、流行りの詐欺に遭わないよう気をつけた方がいい。
今なら私が30分10万円で「詐欺に遭わない心構え」のお話を
……って、ここまで言えばさすがに引っかかるのはうちの母親くらいのものだろうが。

さて。
無駄話はこれくらいにして、お酒の話をしよう。
いや、そもそも全体が「無駄話」かもしれないが
よかったらお付き合いいただきたい。

私は大学生時代に部活をしており、学生寮にも入っていた。そのため、お酒に関するネタは豊富に持っている。
実家に帰ると、弟がその「土産話」を聞くのを楽しみにしていた。当時中学生や高校生の年代だった弟。大学生活を垣間見たかったのか、それとも単純に笑えるネタが欲しかったのかは分からない。ただ、目を輝かせて話を待つ弟の姿を思うと、話のネタを探すのにも気合(?)が入る。話を見つけて多少面白く盛りながら、帰省の際にまとめて聞かせていた。

場所はリビング。続きのキッチンでは母が夕食を作っている。背を向けていても、興味がこちらに向いているのが丸わかりだ。
弟に色んな場所で話を聞かせてはいたが、リビングが多かったのは、今思えば母にも聞かせようとしていたのだろう。

~~~
「みんなで飲み会に行った帰り、すっかり酔っ払った2人が足元をふらつかせながら肩を組んで歩いていてね。そうしたらどっちかが躓いて、2人で派手に転んで顔から地面に突っ込んで行ったんだ」
「うわ……怪我しなかったの?」
「2人とも血だらけになって、思いっきり怪我したよ。それで、みんなで助けたのはいいけど、俺らも足元が覚束ないくらい酔っていたからね。2人を引きずって帰ったから、2人とも余計に傷だらけになって。もう2人をそれぞれの自室まで運ぶのが面倒臭かったから、とりあえず空いていた一部屋に寝かせて、残ったメンバーで別の部屋で飲み直していたんだ。しばらくして、その寝かせた部屋から2人の大きな声が聞こえてきてね」
「えっ?復活して喧嘩でも始めたの?」
「俺らもそう思ったよ。だからみんなで部屋に駆け込んだんだ。そうしたらね……」
「何? あっ、寝言だったとか?」
「いや。2人で泣きながらお互い土下座して謝罪し合ってたんだよ」
「はあ??」
「起きたら相手が傷だらけなのを見て『記憶が無いうちに喧嘩でも始めて、自分が相手を殴ってしまったに違いない』って思ったらしくて。『俺は何てことを』『いや、俺が悪いんだ、許してくれ』って」
「お兄達が状況を教えてあげれば良かったんじゃん」
「それじゃつまんねえだろ? 土下座させときゃ、こうやってネタにできるじゃん」
「鬼か! あははは!」
「それに、起きたといっても数十分しか寝ていなくて結局まだ完全に酔ってるんだから、何を言っても無駄だしね」

話は9割方事実である。一ヶ所だけ……「泣きながら」ではなく、ただ普通に土下座をして全力で謝罪し合っていただけだった。まあ、それはそれで話として面白かったのかもしれないが。

「もう、向こうで何やってるの?時間の価値を考えて過ごしてね。無駄な使い方したらダメだよ」
母が夕食を作りながら話しかけてくる。半分聞かせているつもりでいても、こうやって話しかけられるとやっぱり鬱陶しく感じるものだ。
適当に聞き流しておいたら、諦めて料理に集中し始めた。
「本当に時間の無駄遣い……あっ!お酒入れ過ぎちゃった」
何か突っ込んで欲しそうに大きな独り言を言っても、息子達はそういうものに冷たい。
「あ〜あ、どっちかが女の子だったら良かったのに」
もちろん無視である。

お酒のネタは、実家に帰って一日一話分話せるだけ豊富に取り揃えている。
この日のネタも自信作だ……というと「作った」ことになってしまうか。ほんの少しだけ「修正」が加えられているのは事実だが。

「今日の話は何?」
「酔っ払って、飲み屋の帰りに道端でチンピラに喧嘩売った奴がいてね」
「うわ……怖いなぁ。でも、それはさすがに止めなきゃ。……えっ?まさか」
「君子危うきに近寄らず、って言うだろ?」
「???」
「いや、これは覚えておけよ。入試にも出るかもしれんぞ」
たまには兄貴らしいところも見せておかなければいけない。
「で、どうなったの?」
「そりゃあ、チンピラさん激怒だよ。『なめんなゴルァ』ってね。ちょっと背が低くて痩せた人だったけど、あの迫力はさすがだね」
「褒めてる場合かよ 笑 それで?どうやって助けたの?」
「だから言ってるじゃん、君子危うきに近寄らずって」
「マジかよ。お兄の言う『クンシ』ってのは、遠巻きに観察してただネタだけを拾ってくる奴のことなのか?」
おお、賢いな。さすが我が弟だ。感激しながら話を進める。
「ところがね、一人だけ助けに向かった奴がいたんだよ」
「やった!ヒーロー登場だね! いやでもマジで、お兄達は反省しなよ」
「何を?」
「もういいよ。それで、そのヒーローさんはどうやって助けたの?」
「トコトコとチンピラさんの前に出てね、『まぁ、これで許してやって下さい』って、財布から」
「うわ……カネで解決かよ」
「まぁ……そうとも言えるが、そうでないとも言える」
「???」
「彼は財布から1ドル札を出して『これをあげるから、まあそんなに怒らないで』ってチンピラさんと握手しようとしたんだ」
「あははは!マジかよ!!」
「チンピラさん大激怒。『てめえ!!1ドルって100円じゃねえか!!』ナメやがって!!』って」
「だろうね。どうしたの?」
「逃げたに決まってんだろ」
「まぁ……こうなったら、それしかないよね」
「でもね、先頭で逃げたのがアメフト部の主将で、他の先頭集団にも高校の時に柔道部だった奴やボクシングジムに通っていた奴がいてね。逃げ遅れて危うく捕まりそうになった奴から『お前ら!何仲間見捨てて我先に逃げとんねん!!あのチンピラなら、お前ら1対1でも勝てたやろ!!』ってキレられて 笑」

弟は涙を流して笑い転げ、帰宅して途中から話を聞いていた父も一緒に笑っている。ただ一人、母だけが「本当にもう、時間の無駄遣いだよね」と苦々し気な表情を浮かべているが……息子には分かる。陰で一緒に笑っていたことを。

「その彼はどうして1ドル出そうと思ったんだ?」
父が問いかけてきた。
「いや、外国のお金は珍しいから喜んでくれると真面目に思ったらしいよ。しかも翌日『ボクの1ドル札がビリビリにされた』って落ち込んでいて。彼にとっては100円の価値じゃなかったんだよね、きっと」
また今度は部屋中に笑いが起こった。
一瞬、あの「ドル」の部分を盛って「ペソ」にすり替えた方が面白かったかもしれないと思ったが、考え直した。極端過ぎると現実味が無くなるし、その辺りの「さじ加減」も「語り部」の技(?)なのだ。
「あ~もう。笑わせるからまたお酒入れすぎちゃったじゃない」
さじ加減を失敗した母の嘆きが、部屋に響いた。

ちなみにこの話は、ほぼ実話である。
ただ、当然のことながら(?)どうしてチンピラさんが怒り出したのか、遠巻きで見ていた私達はその場で理解はできず、後から近くにいた2~3人に聞いた情報を基に話を組み立てている。

「もう!本当に時間を無駄に使わないようにしなさいね!」
母が手にした「料理酒」が、何故か光を放った気がした。
ちなみに、我が実家ではあまり酒を飲まず、私もお酒に関しては「大学デビュー」だったのだが……

時代はバブル終焉期。まだまだお中元やお歳暮で高価なものが届いた時代だ。
それまでの母の発言を思い返して、少々胸騒ぎがしてきた。
「もう……うちはお酒飲まないのに。有り難いのかもしれないけれど、1本もらってもねぇ」

「あのさ」
母に語りかける。
「何?」
「その料理酒ってさ」

歩み寄って、手に取ると。
そこには、輝かしい色合いでこう記されていた。

越乃寒梅 大吟醸

「無駄遣いするなよな……」

膝から崩れ落ちるのを堪えながら、母に向かってそう呟いた。

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