副業・ライター

行く手を遮るもの~3000文字チャレンジ「卒業」~

3000文字チャレンジ、今回は「卒業」のテーマを選びました。
先に白状します。
今回の話は8割以上の事実を元にして書いていますが
「盛った」だけでなく、創作も混じっています。

しかし、たった1割~1割5分くらい創作を入れただけで
こうも「あり得ない話」になってしまうんですね(^^;)
「フェイクニュース」ってこうやって作られるのかなって
書いていて少し恐ろしくなりました……。

どこが創作でどこが事実かは、言わない方がいいのかな?
興味ある方は探しながら読んでみてください。

それでは
3000文字チャレンジ、スタートです。
下らない話ですが、お時間が許せばお付き合いください。

3000文字チャレンジ「行く手を遮るもの」


秋休み中の、とある朝。
時刻は10時になろうとしている。
男が、学生寮の廊下を寝ぼけ眼で歩いてきた。

パタ、パタ、パタ

……パタ。

力なく響いていた、スリッパの音が鳴り止む。
行く手を塞ぐ、黒い影。

「何やってんの?」
黒い影は、横たわる人間の姿だった。
「ねぇ……何やってんの?」
横たわった体は動かない。
「通してよ。こんな所で寝てないでさ」
たまらず、その体を転がす。

抵抗なく転がった「物体」は、半目を開いたまま動かない。

「ちょっと……待……おい! 誰か!! 大変だ、警さ……いや、救急車呼んで!! 誰か!!」

……

大学入学後に自動車免許を取得する人は多い。
そこで学生寮から自動車学校に通って免許取得を目指すと、諸先輩方の格好の餌食……いや、応援対象となった。それでも大抵は、それを乗り越え・交わしながら免許取得に至るのだが、中にはとんでもなく不器用な人間もいる。
ここでは、免許取得まで大変な道のりを歩んだ、とある不器用な男の自動車学校卒業までの歩みを記していきたい。
彼の名を……アベとしよう。
実は彼、私の「大学時代の思い出話シリーズ」で過去にも登場している。

副業・ライター

無駄遣い~3000文字チャレンジ「酒」~

2020/10/28  

お酒と聞くと、どうしても 酒の席で起きた失敗談を思い浮かべる。 その話は大抵面白おかしく語られ、周囲を巻き込んで笑いが起きる。 何がそんなに面白いのか。 お酒が入ると、いつもと違う行動に出る人が多いの ...

この話の中で、酔っ払った我々の仲間がチンピラさんに喧嘩を売り、高級腕時計を壊してしまう場面がある(話中では腕時計を壊した件は触れていない)。そこでブチ切れたチンピラさんに向かって「これでカンベンしてください」と満面の笑みで1ドル札を手渡し火に油を注いだのが、このアベだ
(ひとつ擁護しておくと、アベに悪気は全くない。本当に「いい奴」なのだ……ネジがちょっと外れているところはあるが)。

入学して間もなく自動車学校に通い始めたアベの免許取得について、私達が興味を持ち始めたのは、秋口に入った頃である。
「え? アベってまだシャコウ(自動車学校の略)通ってんの?」
S字クランクが苦手どころか、そもそもそこに入れられない
坂道発進どころか、平地の発進もいつまで経っても怪しい
アベの運転中、助手席の講師の頭がガックンガックン揺れていた
同時期に通っていた寮生が身振りを加え報告して爆笑を誘った、アベのネタである。
なるほど、それはなかなか卒業は厳しい。
それでも、相手は教えるプロのはず。真面目なアベであれば卒業できている時期ではないか。

「それがさぁ、同室が……」
「ああ、ツヨシ先輩か」

実は、アベにはもう一つ大きな障壁があった。
同室の先輩である。
ここではツヨシとした。
3年生であるこのツヨシ先輩。
何が厄介かといえば、真面目にアベを応援していたところである。
意味不明と思われた方も多いだろう。真面目に応援してくれて何が厄介なのかと。
しかし、彼の応援は異常だった。
「自分がいなければアベは自動車学校を卒業できない」
そう強く思い、自動車学校に付き添い「直接指導しようとして」出禁を食らい、教習時間に合わせて路上のコースに自分の車で出かけては、路上教習の「邪魔をした」。
当然この部分は私達は噂話(とアベ本人の体験談)で聞いた限りの話だが、これがそっくり事実なら、よく通報されなかったなと感心するレベルである。

さて。
もう一度言うが、今度は分かっていただけると確信している。
最も厄介なのは、ツヨシ先輩が(冷やかしや嫌がらせでなく)彼なりに真面目にアベを応援しているところだった。
4年生以上の先輩にも、ツヨシ先輩に何度か注意してもらったという。ところが「同室の後輩を守るのは自分の務めだ」と変な男気を見せ、頑として受け付けなかったらしい。
アベもアベである。
教習運転中、応援に来たツヨシ先輩に車中から挨拶をしているうちに停止線を越え
二車線で並走しようと頑張るツヨシ先輩の車が気になって前を見ずに走り、助手席の講師にブレーキを踏まれたという。
そのうえ、彼は恐ろしいまでに運を持ち合わせていない。
路上教習で救急車に二度遭遇し、二度とも脇に避け損ねて脱輪したらしい。
さすがに作り話を疑ったが、その話は自動車学校でも伝説になっていて、翌年そこに通った後輩の寮生が講師に同じ話を聞かされたそうだ。
「君はあそこの寮生か。大丈夫か?」
といじられたらしいが。

そんなアベも、とうとう卒業検定の日を迎えた。
さあ、いよいよ卒業検定だ!
と鼻息が荒

……かったのは、ツヨシ先輩だった。

さすがに卒業検定まで来られてはまずかろう。
友情が芽生えていた私達1年生は、アベの為に一計を案じた。
怖い諸先輩方に、前夜ツヨシ先輩を飲みに誘ってもらい、検定時間である午前10時までツヨシ先輩を飲ませ、酔わせて「足止め」させる作戦だ。
私達は、学生寮で最も恐れられていた先輩の部屋に、足を震わせながらお願いに上がった。
「よし。任せておけ」
怖いと噂の先輩は、勇気ある一年生には優しく、むしろ積極的に協力してくれた。
この先輩の名は、シゲカズ先輩としよう(ドラゴンズファン諸氏はそろそろ各人の名付けの由来に気付いたであろう)。

卒業検定前夜。
集会室には、震え上がるほどの錚々たるメンバーが集められた。
シゲカズ先輩の鶴の一声で集められたメンバー……私達1年生は部屋の隅で小さくなるしかない。
そこに、ツヨシ先輩が連れられ入室してきた。

「あの……明日は同室の卒業検……」
「さあ!!アベの自動車学校卒業前夜祭や!!」
「オオオオ!!」
「乾杯〜〜!!」
「オオオオ!!」
ほどなく場はいわゆる「どんちゃん騒ぎ」となり
徹底マークされたツヨシ先輩の隣には怖い諸先輩方が代わる代わる座り、グラスには次々お酒が注がれた。

日が昇り、朝の爽やかな空気に包まれる中、いよいよお開きの時間を迎える。
「9時か、もう大丈夫だろ」
ツヨシ先輩は、集会室の入口ですっかり酔い潰れていた。
参加した1年生全員で、ツヨシ先輩の寝顔を覗き込み、起きないことを確かめる。

「本当だ……」
「何が?」
「アベに聞いてはいたんだけど、凄くない?」

全員でその寝顔を確認し、集会室にあったタオルケットを体にそっと掛け、静かにその場を後にした。

「さあ、二次会や! お前らも来い」

他の怖い先輩方から声をかけられた。
背筋が寒くなった、そのとき。

「今日はやめてやれ」

「あ、はい」
「シゲさんがおっしゃるなら……」

救ってくれたのは、シゲカズ先輩である。
「あ……最後までありがとうございます!!」
「お前らにはまだこれから大事な仕事があるだろ? まずはアベがちゃんと出かけたか確認して来いよ。頑張れよ……って、頑張るのはアベだな、ハッハッハ」
シゲカズ先輩は、最敬礼している全員の頭を一人ずつクシャッと撫でていきながら、二次会へと向かっていった。

「惚れてまうやろ……」

シゲカズさんの後ろ姿を見ながら1人がつぶやいた言葉は、全員の気持ちを代弁したものだった。
アベの部屋にはカバンがなく、下駄箱にも靴は入っていない。
全ての確認を終え、少なくとも友人として出来ることは全てやった。
これで任務完了である。
私達1年生は、誰からともなくハイタッチを始めた。
時刻は10時を回り、あとはアベからの報告を聞くだけだ。

「あれ? 救急車入ってきたで」

~・~・~・~・~・~

「ちょっとちょっと、どうしたんですか? ボクは大丈夫です」

隊員さん達に抱えられながら現れたのは、ツヨシ先輩だった。
通報者と発見者の報告を聞いた内容をまとめる。
私達が去ったすぐ後なのだろう。もの凄い執念(?)で目を覚ましたツヨシ先輩は自室に戻ろうとし……その途中、廊下の真ん中でまた力尽きたようだ。
発見者は、初め死んでいると思い、警察への通報を考えたらしい。
しかしその直後に大いびきをかき始めたため、救急車の通報を頼んだという。

「目が半開きだったから……」

そうなのだ。
私達はアベから聞いていた。
ツヨシ先輩は白目をむいて寝るから、夜中に起きて目が合うとゾッとする……と。
とりあえず元気そうだが、念のためツヨシ先輩は病院に搬送されることとなった。

ツヨシ先輩を乗せた救急車が去っていく。
どうやら大丈夫そうだという安堵感
これで卒業検定は邪魔されないという安心感
さまざまな思いが駆け抜ける。
10時検定開始なら、アベはそろそろコースを走っている頃だろう。

……

「ただいま」
「アベ!! 待ってたで!」
「お疲れ!」
「どうだった?」

私達の眼差しを一身に浴びたアベは、視線を落とす。

「ごめん……駄目だった」

「マジか……」

膝から崩れ落ちそうになった。

「いや、本当に申し訳ない」

「何があったん?」

「◯◯の交差点(学生寮の近く)で、寮の方向から救急車が出てきたんだよ。どうしていいか分からなくなって……」

顔を合わせた私達の目と口は
いつまでも開いたまま、時が流れた。

……

しばらくして、そんなアベも卒業・免許取得に至った。
そこで私達がアベに送った卒業の「祝辞」は、見事に一致することとなる。

「卒業と免許取得はおめでとう。でも、将来もし車持っても俺(僕)の車には絶対近寄るなよ!」

Taka
最後まで読んでいただき、ありがとうございました
でもさ、そんな人が車運転したら危なくない?
Taka娘
Taka
それがね。彼は自分のことをよく分かっていたから、身分証明に使うだけで車を運転することはなかったんだよ。就職地も「車を使わなくても生きていける場所」として東京を選んだ。
ふぅん
Taka娘
その「アベ」って人、今も付き合いある中の一人?
Taka嫁
Taka
うん。年賀状が来るし、ラインでもたまに話すね。〇〇だよ
それでさ、どこまでがホントの話なの?
Taka娘
Taka
〇〇は実力だけでなく、救急車にも二度遭遇し二度とも脱輪(ここは噂の範囲だが……今度本人に聞いてみようかな)するなどして、なかなか自動車免許が取れなかった。そんな〇〇を応援するつもりだった同室の先輩が、盛大に〇〇の足を引っ張り続けた。そこで、卒業検定当日には「応援」に行かせないよう前日夜から飲み会を設定したら、朝方酔い潰れて廊下を半目で寝ていた先輩を見て、通りがかりの寮生に救急車を呼ばれてしまった。同じ頃、「二度あることは三度」で、〇〇は三たび救急車に行く手を塞がれて検定中止になった
救急車は本当なんだ! 〇〇さん、凄い人だね
Taka嫁
Taka
ああ……そこは創作ではないんだけど……からくりというかね。救急病院がコースと近かったから、救急車と遭遇するのはそこの自動車学校ではそこまで珍しい話ではなかったらしいんだ。とはいえ、そうそう頻繁には来ないよね
そこもウソなのね
Taka娘
Taka
でもね……あり得なくもない話として。〇〇の行く手を遮った救急車に乗っていたのは、時間的に実は先輩だったんじゃないかって噂は上がっていたんだよね
真相は闇の中、ってことね
Taka嫁
Taka
少なくとも、「学生寮の方向から救急車が出てきた」の発言内容は創作だけどね

改めまして、最後までお読みいただきありがとうございました。
資格試験などでブログもしばらく休眠状態でしたが、徐々に復活していこうと思っています。
またよろしくお願いします。

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