愛知発・史跡巡り、今回は前回の流れで南信州にある「浪合関所跡」を紹介します。正直なところ、歴史の表舞台に出てくるような史跡ではありません。しかし、ここには特別な魅力があります。それは……「何もない魅力」です。
浪合関所跡までの道のり
愛知県から国道153号線を北上していくと、前回紹介した信玄塚のある根羽村に着きます。途中猿投グリーンロードを通って、ここまで約1時間半でしょうか。ただ、たどり着くまで毎回道の駅などに必ず寄ってしまうので、実はノンストップで車を走らせたときの所要時間が分かりません(^_^;)
浪合関所跡は、そこから更に車を走らせていきます。平谷村を通過し(ここにも必ず寄る道の駅があります……)、更に治部坂峠があり(別荘地の紅葉の光景は圧巻です)……括弧でお分かりのとおり、ここも直行の所要時間は不明です。
治部坂高原を通過し、しばらく行くと旧浪合村に入ります。現在は合併して阿智村になっていますが、中心部には支所などがあります。浪合関所跡は、大まかに言えばその近く……治部坂高原から支所に向かうまでの場所にあります。
車を停めて浪合関所跡へ
近隣の方にお聞きして、国道153号線沿いの駐車スペースに向かいました。名古屋方面からだと右手にあるスペースはそれなりに広く、しっかり測ってはいませんが5台ほど停められるでしょうか。
古いながら案内用の看板もあり、どうやら地元の方がお話していたとおり、旧街道を見学する人用の駐車スペースのようです。
石で造られた「道標」に従ってここから小道を降りていき、浪合関所跡へと向かっていきます。
少し下っていくとすぐ、新しい吊り橋があります。ここからの景色もなかなかのもの。訪れたのは秋だったので、流れる川沿いの紅葉が綺麗でした。
更に歩を進めていきますが、ここから先は本当に何もなく、ただ目的地に向かうだけだと「本当にこの道でいいのか」と不安になる道のりです。しかし、ここからは少し気持ちを入れ替えて進むのがお勧め。道中は自然そのものです。恐らく、当時の伊那街道そのままの風景なのではないでしょうか。もうタイムスリップしたかのような、観光地化されている「作られた宿場町」「作られた街道」ではない、そのままのテーマパークに足を踏み入れているような……あるいは前から当時の人々が歩いてくるのではないか、そんな思いすらしてくる道のりです。
季節は秋、紅葉の季節。しかし、道に敷き詰められた落ち葉は針葉樹が多かったように思います。そして、澄んだ空気と森の匂い、遠くから聞こえる清流のせせらぎの音。本当に別世界にいるような感覚です。
そして……ありました。
曲がりくねった街道の先。視界に突如として現れたのが、浪合関所跡の門です。
浪合関所跡と武田信玄
浪合関所は、武田信玄の時代に作られたそうです。武田信玄といえば本拠としていたのが甲斐国(山梨県)で、南信州のこの地は名古屋からの方が近い場所ではあります。しかし、この伊那街道をもう少し進めば飯田市に抜け、その先には諏訪湖があります。諏訪湖といえば、武田勝頼を産んだ諏訪御料人の故郷で、そういった位置関係を見ると武田信玄との繋がりが強いのも頷けますね。
あと、前回紹介した信玄塚が街道沿いにあり、武田軍が帰路に引き返さず北上したのもまた納得です(まあ、「じゃあもう一度徳川家康の領地を横切るのか」等々他にもさまざまな理由があるでしょうけれど)。
あるいは(少々横道逸れます)武田信玄はあの信玄塚付近で亡くなったのではなく、道中既に亡くなっていたのかもしれないですね。それで、領土として確立している場所まで辿り着いて荼毘に付したのが信玄塚あたり、とか。
あ、何の根拠もなく思いつきで想像してしまいました。
さて、話題を戻します。
浪合関所跡の雰囲気
冒頭に触れたとおり、この「何もなさ」が本当に好きです。これは他意はありません。門は復元されたものですが、周囲などはある程度そのまま残された光景。前述のとおり、傍から当時の方々が出てきてもおかしくないような(いや実際に出てきたら悲鳴あげて逃げますが)そんな雰囲気です。
浪合関所跡の歴史
今まで散々「当時のまま」のようなことを言ってきて恐縮ですが……実は現在の場所にあるのは享保7年(1722年)からで、武田信玄が開設した当時はもう少し南の平谷村付近にあったそうです。平谷村といえば、道の駅のある辺りでしょうかね。
伊那街道沿いにあり、交通の要所であったこの地の通行を取り締まる目的があったとされています。前述のとおり、江戸時代に入ってからも移設されながら明治初期まで運用されていたそうです。門は廃止の際に壊されたそうですが、平成に入って復元されたようですね。
こうして説明してみると、次回は旧関所のあった平谷村の滝の沢地区を訪ねてみたくなります。
浪合関所跡へのアクセスなど
文中にも出てきますが、改めて紹介します。私はドライブがてら国道153号線を北上しましたが、まっすぐ浪合関所跡に向かいたいのであれば中央高速道路の園原インターまたは飯田山本インターから国道153号線を南下するルートがおすすめです。その際は当然ながら、浪合関所跡は左手になりますね。浪合支所を通過してしばらく走ったところです。
逆に(信玄塚のところでも何度か触れていますが)歴史を感じてゆっくり行きたいのであれば、長篠から北上して伊那街道を「武田信玄が最期に進んだであろうルート」を進むのも一興でしょうか。
現地では、車から降りてもすぐ関所跡があるわけではなく、しばらく歩きます。所要時間は10〜15分程でしょうか(すみません、周囲の雰囲気に浸っていたのでまっすぐ進んだ所要時間が正確に分かりません)。すぐある場所にはないので、スニーカーなどそこそこの悪路でも歩ける格好で行かれることをお勧めします。括弧内の話にもつながりますが、できれば30分くらいかけて雰囲気を楽しみながら進んでいけたら、歴史好きなら楽しいと思いますよ。
遠方からお越しであれば、昼神温泉に宿泊し、信玄塚も含めて訪れたあと、夜は星を眺めるのがオススメのプランです(この阿智村・浪合あたりは、「日本一星空の綺麗な場所」が売り。確か実際に指定を受けていたはずです)。春はハナモモ、夏は緑、秋は紅葉が楽しめます。
史跡巡り、次回は徳川家の「故郷」松平郷を紹介します。